【AI Super Powers】[Part.1]China, Silicon Valley and the New World Order by Kai-Fu Lee  AI超大国(中国とシリコンバレー)と今後の新しい世界

久々に刺激的な本に出会った。AIの世界で先頭を走ってきたLee氏の人生が詰め込まれている。[Part.1]では著作に沿った流れでまとめる。[Part.2]ではAIの世界の登場人物をまとめる。

1961年生まれのLee氏はカーネギーメロン大学の博士課程の時に、音声認識技術を開発する。そしてApple、Microsoft、GoogleでAI技術の開発に携わる。1998年〜2000年までMicrosoftの中国研究拠点の開設、2005年〜2009年までGoogle Chinaの展開を行う。その後、中国に移住しベンチャーキャピタルSinovation Venturesを立ち上げ、中国のAI指南役、若手技術者の育成支援を手広く行っている。

この本は3つの部分から成り立つ、
1.AIの技術の発展とそれが巻き起こす失業を伴う社会変化の予測と課題。
2.Lee氏は2016年末期のリンパ腫と診断される。そこでLee氏の生き方と考え方の「大変化」が起こる。AIに欠けているものを見つけ出す。
3.それらを踏まえて、今後のAI社会に必要なものを発想する。

最先端のAI研究を通して、Lee氏がこの本で書いた内容は、人生100年時代の学びそのものである。
突然、末期リンパ腫と診断されて、自分の生き方を真剣に見直す。
心の師を探し当て、生き方を変える。そして、末期の定義を再検討してみると、つまらぬデータから結論が出されていることに愕然とする。

そしてLee氏は、これからの社会のあり方に、AIとHuman Factorのつながりを思いつく。
Basic Incomeと合わせて今後の新しい社会を提言する。

中国は先進国のものまねを当然とする文化で今まで来ていたと認めた上で、その結果AI超大国は米国(シリコンバレー)と中国になった。AIはものまねではなく中国の独自の方法やMarketingですでに最先端にいると断定。とりわけ2014年にAlibabaがNYSEに上場し、しかも史上最大の調達金額を達成したことでAI世界が自信を持ち始める。そして、2016年には国を挙げてAI推進方針が規定され2030年には世界トップのAI国となるために猛烈に動き始める。

AIには4つの種類がある
① Internet AI InternetのAI利用
② Business AI 基幹ビジネスAI
③ Perseption AI 認識AI
④ Autonoumous AI 自動化AI
それぞれの分野での米国と中国の優位性比較[図ー1]
中国の優位性の原動力は「コロセウムの剣闘士AI」による、生きるか死ぬかを賭けたベンチャー事業設立競争にあり、それが最初から「顧客ありき」ビジネス展開になっている点を指摘する。
それに対するシリコンバレー企業は「AIアルゴリズムの開発」をGAFMに向けてやっているところに差があると指摘している。

[図ー1]中国と米国の分野別AI優位性比較
左側は現在、右側は5年後

そして、これからの仕事を縦軸を社会との関わりの大きさ、横軸を創造性の大きさで4つに分類する。
[図ー3]は知性認識が絡む仕事分野
[図ー4]は肉体労働が絡む仕事分野
左下が危険ゾーン(Danger Zone)
右上が安全ゾーン(Safe Zone)
左上は人間が対話するゾーン(Human Veneer)
右下はゆっくりと置き換えられるゾーン(Slow Creep)

[図ー3]知性認識が絡む仕事のAI置き換え予測
[図ー4]肉体労働が絡む仕事分野のAI置き換え予測

2016年、彼は台湾で検診を受けた時に、末期のリンパ癌と診断される。5年生き残り率50%。今まで仕事一筋で生きてきた人生に、転機が訪れる。P.177
生き方の見直しで台湾の山中で道場を開くHsing Yun師を訪ねる。
そして、自分の今まで思っていたこと(実績を後代に残したい)ではなく周りの人たちのために尽くしたいという意識へ転回する。

同時に、末期がんの認定プロセスを調べると、チェックシートの答えから結論が出されていることを知り、愕然とする。
(ここでAIを使った判定法を医学界に提言する)
末期ではなく治療できる範囲でのリンパ癌であたので、化学療法の結果寛解する。

そして、この経験を踏まえ、AIと人間の関わりを含めた、これからの社会の提言へとつながる。P.211
[図ー5]はAIと人間の仕事分担図

[図ー5]AIと人間の仕事分担

これらを達成するために、AIによって生み出される富を広く分配する必要があるとして、Universal Basic Income(UBI)の提言がある。
UBIがあれば、新しいことにChallengeすることをサポートできるからである。
また、AIへの人間的要素の付加は、Lee氏の癌体験でも非常に重要な意味を持っていることを実感し、それをAIに反映させるべく動き始めている。

2005年のSteve JobsのStanford大学での講演がLee氏の生き方にも大きく影響していることが語られる。P.226

これは私見であるが、AIと人間との連携分野に強いのは「日本人」ではないかと思う。おもてなしとか、場の雰囲気「空気」を読む能力に長けている。
AIの人間的利用技術、その体験の場としての日本というアイデアが湧いてきた。

Lee氏も素晴らしい人生を送っていると思う。
つみ重ねた経験を今に活かすこと、そしてそれが人々の生活を人間的にするというコンセプトは素晴らしい。

この本はまだ日本語はでていないが、中味の濃さは素晴らしいので、ぜひお読みになることをお勧めします。

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