【ユダヤ人と経済生活】W・ゾンバルト著1911刊 金森達也訳 2015年刊 ユダヤ教徒の経済への貢献を歴史的、地理的に追求した書 これからの世界の動きを考える大きなヒントがある

「ユダヤ教徒の研究」

2月の東京での勉強会で勉強仲間から教えてもらった本である

まとめてしまうと、ゾンバルトはユダヤ教の教えが、近代資本主義の精神と合致していたことが、ユダヤ人が成功した理由であると特定している。

当時は、マックス・ウエーバーのプロテスタント倫理が一世を風靡していた時代であるので、相当反発も強かったので、あまり注目されなかった著作であったようだ。

私にとって、新しい発見は「イスラムの支配した中世以降」ユダヤ人は貴族、諸侯に領地や国の経済的な管理を任されるところから入り、権力を獲得するとともに、富を増やした。

とりわけ、資金調達法としてユダヤ人は債権を発明することで、富の増大と移動を容易にし、国家権力レベルの経済管理ノウハウを身につけた。

ユダヤ経典は経営マニュアルでもある

ユダヤ教は、「律法学者」ラビにより教典管理を行い、ラビは毎週日曜日の礼拝で、ユダヤ教徒の「今日の問題」に対する経典から読み取る「教え」を信者に伝える。ラビによって取り上げられた「今日の問題」は、すぐにラビネットワークに伝えられ、情報共有される。

時代の転換は新事業のチャンス

ゾンバルトの取り扱うユダヤ人情報は、中世後期から大航海時代への転換時期にも言及される。スペイン、ポルトガルでユダヤ人の王権を支える経済的視点で、アジアや西インド諸島への航海を支援して、後の植民地体制へとつながってゆく。進出した中南米では、金銀鉱山の開発による独占などがいち早く行われた。

ユダヤ人なしではキリスト教徒は食べてゆけない

欧州でもユダヤ人の持つ経済的な影響は大きく、1550年ベネチアのキリスト教徒は次のように言ったことからも、ユダヤ人の経済的独占が伺われる。

ヴェネチアの市参事会がユダヤ商人マラノスを追放し、彼らとの取引を厳禁すると決めたとき、同市のキリスト教徒の商人たちは「それではわれわれが破滅する。われわれ自身も放浪の旅に出なくてはならない。なぜならわれわれはユダヤ人との取引によってのみ生きてゆけるからだ」と宣言した。彼らはさらにユダヤ人は次の四つの事業を手中におさめているとのべた。
① スペインの羊毛取引
② スペインの絹、深紅色の色素、砂糖、胡椒、西インドの植民地商品と真珠の取引
③ 輸出貿易の大部分。ユダヤ人はヴェネチア人に商品を委託輸出している。「なぜなら、彼らは自分たちも儲けながら、われわれの日用品を売ったからだ」
④ 手形取引

世界に既に散らばっているユダヤ人

東インド会社も、現地のユダヤ人の指導の元に作られたとしている。
(オランダ、イギリス)
そして、米国は最初の植民地の時代から続々と入り込んで、ユダヤ人の拠点を作り上げた。固定した場所を住処としない民族の特性を大いに発揮している。
結論から言うと、ユダヤ人が移動した先は「繁栄」するのである。

ウエーバーとゾンバルトの資本主義の認識の違い

ウエーバーが近代資本主義からの視点で見ているのに対し、ゾンバルトは歴史の流れで「経済力の原点」に着目して見ている点である。それゆえ、ウエーバーはプロテスタントが採用した事例に焦点を当てている。ゾンバルトは、歴史的に経済が動いてきた流れを見てそれを動かした「実体」にユダヤ人が絡んでいることを検証している。

もう少し突っ込むと、ユダヤ教徒の「情報網」「経典による経済活動の方向性」を身につけながら、世界に広がってゆく姿が描かれている。

紀元前から世界展開していたユダヤ教とネットワーク

ユダヤ人は紀元前から世界各地に離散していった。
しかし、経典に忠実であるがゆえにユダヤ教徒同士の「相互のネットワーク」「情報共有」は維持された。
それゆえ、ローマ帝国崩壊後の多民族乱立の時代でも、商業ネットワークの優位性を確保することができた。

「情報」が最重要

この「情報共有」を迅速にすることはユダヤ教徒でも傑出した「ロスチャイルド家」の大きな武器であった。それは国家間の動向を知り、それによる富を築く上でも最重要項目であった。

米国はユダヤ人の構想でできた

米国内ではユダヤ人は大きな差別を受けることなく、比較的自由な活動ができた。
南北戦争での、北軍支援にもユダヤ人は貢献し、従来の強みである金融関連を通じて新産業に積極的に投資し、新事業の経営者としての活躍も数多く見られるようになった。

訳者のまとめから

 ゾンバルトは近代資本主義の促進にユダヤ人が多くの役割を示したことに注目し、そのことを『近代資本主義』などの著述でも強調した。しかしそれに飽きたらず、とくに本書『ユダヤ人と経済生活』に正面から取り組んだ。その成果が本書である。彼はマックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を著し、プロテスタンティズムが資本主義の発展に大いに関連があることを力説したのを読んで刺激され、本書を著したとのべているが、その結論はヴェーバーとは全く異なりプロテスタンティズムには資本主義をむしろ阻害する要素があり、むしろ、ユダヤ人の方が積極的に資本主義の発展促進につくしたとのべている。それについては後述することにして、まず、ユダヤ人の経済発展への寄与を扱った本書の第一部について見てみよう。

もともと中世の封建社会では、キリスト教で他人に金を貸して利息を取ることは罪悪であるとされ、そのためキリスト教徒は大掛かりな金融業はできなかった。ところがユダヤ人にはこれが許されていた。もっとも、ユダヤ人であっても利息を取るのが許されるのは、相手が同胞ではなく異邦人の場合である。たしかに、古いユダヤ人の共同体では利息のつかない貸付のみが許され、無報酬で行う同胞の相互援助が当然とされ

この方面の先駆者であるユダヤ人は持ち前の勤勉さを発揮して、金を儲け富豪となるものが続出した。そうしたユダヤ人の富裕ぶりが目立ったのは、まさに逆説的だがとくに十六世紀、カトリック教徒によってユダヤ人がイベリア半島(スペイン、ポルトガル)から追いだされるようになってからである。ユダヤ人はそのさい、多くの財産を売却したが、その代金を移住先の新天地の両替所で受け取り事業につぎ込んだ。たとえば、十七、十八世紀におけるオランダのユダヤ人の企業活動や富裕ぶりは有名で、彼らの豪邸はヨーロッパの有名な王公の宮殿にもけっして引けを取らなかったという。

ユダヤ人の資本主義社会における活動のなかでも、とくに有価証券取引に取り組むさいの彼らの敏腕ぶりに注目した。この有価証券取引はユダヤ人の発明であり、

ユダヤ人が資本主義にいかに適合しているかを、とりわけ宗教生活との関連においてくわしくのべている。なかでも、ユダヤ人のきびしい性生活と食生活が近代資本主義の組織に適合していることをゾンバルトは重視している。

ユダヤ教のきびしい掟は食生活にもおよび、人は快楽のためでなく肉体保全のためにのみ食事せよとされている。そのほか、生活面における諸々のきびしい掟がある。たとえば、朝寝してはならない。昼間ワインを飲んではならない。それに、何よりも勤勉、節約第一の生活をせよというわけだ。

これに反し、北方民族(ゲルマン人)は森の人である。ゾンバルトによれば砂漠と森とは大きな対照をなし、それぞれの居住者も全く異なった性格をもっている。森の人は大地には親近感をもち森を切り開いて畑をつくり耕作して定住する。そこで彼らは森の木々や灌木、草原や鳥獣と一体化し、いわば自然と共存する。そのために実利一点ばりの砂漠居住者と違ってロマン主義的で理想主義的な心情を抱くようになる。こう説いたゾンバルトは、いわばユダヤ人と北方民族両者の性質、本質の止揚、統合を願っていたよう

ヴェーバーは、職業統計および信仰統計の示す事実に基づいて、近代的企業における資本家および企業経営者のうちプロテスタントによって占められている数字はカトリック教徒よりも著しく高い比率を示していることをつきとめ、近代資本主義とプロテスタンティズム、とくにカルヴァン派の考えとの間に深い因果関係があることに着目した。

禁欲的なプロテスタントは当初は世俗的現世的な資本主義をむしろ憎んでおり、したがって、経済活動には冷淡であったとする。たしかに、プロテスタントはその後迫害を受け、とくに新大陸などに移住させられた者は彼らに許された唯一の活動分野である経済界で活動せざるをえず、これが、その土地の資本主義の発展に貢献したと彼はみている。しかも、そのさい模範となったのは以前から資本主義に適応する構えをみせていたユダヤ人であり、こうした意味からも資本主義の元祖はユダヤ人であるとゾンバルトは説いたわけだ。

たしかに、ユダヤ人といえば彼らが1948年に建国したイスラエルの政治的、軍事的な動きが依然として注目の的になっている。イスラエルのユダヤ人人口はわずか500万くらいだが、ユダヤ人はこの国以外の世界各地に分散し活躍している。とくに、アメリカには全人口の3パーセント、およそ6百万人のユダヤ人が住んでおり、マスコミ産業、小売業、貴金属取引などに強い影響力をもっている。とくに、活躍が目立つのは投資銀行(証券受引業者)で、この他スーパーマーケットなどの流通業界、穀物メジャーなどの商社、販売代理業界、衣料、化粧品業界などがある。こうした経済面ばかりでなく、彼らは自然科学、社会科学の両面にわたる学界でオピニオン・リーダーとなっている。世界人口のなかの0.3パーセント、イスラエルと世界各地の同胞を全部合わせてもわずか12百万人あまりにすぎないユダヤ人がなんとノーベル賞全受賞者総数558人のうちほぼ20パーセントの104人(1992年現在)を占めている。

ユダヤ教徒の研究も、遅々ながら進んできている。
現在のCOVID-19がグローバリズムを崩壊させ、資本主義の経済危機をももたらそうとしている。
両者の中心にいる「ユダヤ教徒」を研究することは、次の時代を生きる上で重要な鍵になる。多くの方々と意見交換したい内容である。

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