W .ゾンバルト氏はブログに引用した「ユダヤ人の経済生活」の著者でもある。
「ユダヤ教徒の研究」では、歴史の影に隠れていたユダヤ教徒の実態を「陰謀論」ではなく調べる。
ゾンバルト氏の著作は、M.ウエーバーが資本主義を「プロテスタンティズム」に起因したと断定する思考に対する反証である。
反証の理由を読み取ることが「ユダヤ教徒の研究」になるので取り上げた。
(実際は、尊敬する奥井礼喜先生に、渡米前に読めと言われて、やっと読み終わったのであるが)
企業家の持つべき精神は3つ
① 利口なこと
理解が早く、判断が早い
② 賢明なこと
人間通であり、世間通でもある
③ 豊かな精神性を持つこと
理念が豊富、着想が豊か
しかも、 生命力の旺盛なこと
人間の2つのタイプ
支出する人間、収益を上げる人間
それは前者が貴族的人間、後者は主に市民的人間
芸術家と企業家
前者が抽象の世界、後者が実体の世界
に分けて考える
16世紀以降、貴族的人間が市民的人間と混じりながら資本主義社会を形成する上で、後者の重みが増していった。
キケロの言葉を借りれば、「その人が一体どのくらい役に立ったかと言うことではなくその人が何者であるかということが重要である」となる。
中世までの価値観
市民秩序(経済観念も含め)は愛の価値(至高性)には置き換えられない
民族の差
過度に資本主義的素質を持つ民族
大掛かりな暴力的企業、海賊行為の才能、英雄的民族群
ローマ人:ノルマン、ランゴバルド、サクソン、フランク、ヴェネチア、ジェノヴァ、イギリスが続く
平和的な商業活動の素質を持つ民族
フィレンツエ、スコットランド、ユダヤ
フィレンツエの商人の流れは、エトルリアとギリシャによる古代の商人民族の流れを汲んでいる。それにゲルマンの血が入った。
エトルリア商人の理念には、教会的―宗教的なものが強い
エトルリアの上に、アジアの宗教的思想が合わさっていた。
ゲルマンの中でも、フリースランド人は商人気質と市民的な勘定高い生活方式と言う歴史をたどり、オランダ人やスイス人にその性格を刻み込んだ。
例外ケルト民族
欧州の民族が資本主義に適応していると考えることもできるが、例外としてケルト人は適応できていないと考える。(ケルト人:スコットランドの高地人:封建領主的考え方が強い、そして、フランス人とつながりが強い)
ユダヤ人が資本主義の精神の発達に決定的な影響をし始めた17世紀以来彼らの素質は前著「ユダヤ人の経済生活」で述べた。
哲学の役割
資本主義の精神が求めた哲学は「健全な人間悟性の哲学」=功利主義
節度、倹約が幸福につながる。L・B・アルベルティ(古代の文献に熟知)とB・フランクリン
宗教の意義
1.カトリック
フィレンツエ(カトリックの街)で資本主義が発展したこと。修道院が多く、強かった。
中世においては金銭欲と利益追求欲はユダヤ人と聖職者に見られた。
2.プロテスタント
スコットランドで興隆を見た
カルヴァンの地獄説教で恐怖心をもたらす。
3.ユダヤ人
ユダヤ教が日常生活の指針であったことが資本主義への移行を加速した。
神の教えをユダヤ人ほど歴史的にも厳格に守っている民族はない。
ラビ(律法学者)による支配が中世に確立された。
「タルムード」にラビたちの議論が書き残され、常に活動原理はアップデートされてきたことも大きい。
カトリシズムによる資本主義発展の阻害
スペインのキリスト教徒とイスラム教徒の宗教戦争
3700回のムーア人との戦い。
勝利したキリスト教貴族は、狂信と封建主義の上に確立された。
14世紀のトマス主義(トマス・アキュナス=神学大全):生の理性による合理化そのための道徳律の確立、感覚的欲求(特に性欲)を理性によるバランスに持ち込む。
後期ギリシャ哲学とモーゼの十戒(ユダヤ教)とつながる。
トマス主義リベラリタス(経済観)
賢明さの要素
記憶、分別、独創性、理性的な熟慮、学識、予見、洞察、慎重さ
避けるべき罪
無思慮、性急、軽率、怠慢
これらが、精神的美徳として初期の資本主義企業家の指針となった。
与えられた階級から抜け出る(富を増大させる)ことが是認された。
初期キリスト教の貧しきものが救われる思想は終わり、富む者はその富をいかに使うかが問われるというロジックに進む。
利子の禁止という教義上の難問解決
そして、利子の禁止は「金銭が資本になることを妨げてはならない」という論理に置き換えられた。貸金の利子は禁じられ、資本利潤が許されるようになった。
プロテスタンティズム
ここでゾンバルトはピューリタニズムが、現世的な金銭を蔑視することによって資本主義精神を弱めたと言う意見を述べる。これが当時一世を風靡していたマックスウェーバーの資本主義の精神とプロテスタンティズムの倫理の著作に対する公然とした批判であった。
そしてプロテスタンティズムでは企業による利益は「神に奉仕し、われらの隣人に恩恵を与え、公共の福祉に貢献する」時のみ許されるとした。
ユダヤ教
ユダヤ教の教理はトマス主義に取り込まれた。ユダヤ教の教理は一貫して資本主義を促進する倫理観を提示している。富裕と繁栄に取り組むこと。(キリスト教は福音書の貧困の理想に立脚している)
これを既に中世の時点で1000年以上取り組んできた実績もある。
利息の取り立てについては、同胞からとることは禁止、異邦人からは許容される。
これが、外国人には金を貸して利息を取る仕組みにユダヤ人が才能を発揮した部分である。
タルムードでは「外国人との取引上で、ユダヤ人は同胞に対する場合と違って、多少の欺きは良し、とされた。
神は自由取引、営業の自由を認めている
道徳律
国家
精神の形成に影響を与えた部門
1.軍隊
フィレンツエ 傭兵
ユダヤ 過去の自身の戦争志向(ディアスポラ以降)が戦争のビジネス志向(王侯に戦争のために金を貸す)へと変わった
2.財政制度
契約組織
株式会社
3.教会政策
キリスト教徒が市民、それ以外は半市民(ユダヤ教徒も含む)
カトリック国ではプロテスタントが半市民、プロテスタント国ではカトリックが半市民
移住という手段と新大陸発見
その中でも近世のユダヤ人の移住は15世紀から始まった。
1685年ナントの勅令廃止後、フランスから移住したプロテスタントは二百万人を超える。
米国への移住
1820−1870で750万人が移住した。
イギリス・ドイツで2/3フランス、ノルウエー
ユダヤ人も含め、新天地米国にそれぞれが資本主義精神を持ち込んだ。
新大陸:富が全てから始まる世界
鉄道建設、機械製造メーカー
金・銀の発掘
貨幣経済が、世界を数量的に観察することに人々を慣れさせた。
技術開発への投資
近代資本主義精神のまとめ
1.ゲルマン的ローマ的精神の深奥から生まれた自然科学これが近代的技術を可能にした。
2.ユダヤの精神から作られた株式取引所。近代的技術と近代的株式取引所との結合がはじめて資本主義的企業の無限を目指す努力を実現させる形式を与えた。
近代のユダヤ人解放の動きは、強力な支持を得た。
3.それは、17世紀以来、ユダヤ人がヨーロッパの経済生活の中に及ぼし始めた影響のおかげである。ユダヤ人はその素質からして、営業努力を無制限かつ際限なく行い、しかもこの努力の際に彼らの宗教によって妨げることなく、逆に支持された。ユダヤ人は、近代資本主義の発生にあたって、触媒のような働きをした。
4.発達初期の資本主義の精神が風習や道徳によって課せられている拘束は、キリスト教諸民族における宗教感情の弱体化によって緩められた。
5.そしてこうした高速は、移民と放浪で最も有能な経済人が送り込まれた異国の土地で、すべての結びつきが消滅することによって完全になくなった。
実在の人物ファウスト
ファウスト精神が欧州の経済力推進の力であったと同様、共存したメフィストフェレスもいた。資本主義の世界ではユダヤ人がメフィストフェレス役をしているケースが多いとゾンバルトは述べている。
[私の学び]
M.ウエーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を近代資本主義精神の設立ロジックだと思っていた。しかし、ユダヤ教徒の研究を始めてから、世界の思想的背景にある「ユダヤ教の影響」がおぼろげながら見えてくるようになった。
その意味で、ゾンバルト氏の著作を今の時点で読めて、これからの学びの方向性が得られた。
今までは門外漢であった政治・経済分野であるが、学びを深めて、大きな視野を持ち、これからの世界の動きに反映させてゆきたい。
人生100年大人の学びのブログを始めてちょうど1年たった。
この間の世界の動きは衝撃的である。昨年末のパンデミックがあっという間に世界中に蔓延している。
あれだけ自由に移動できた世界の国々に、もはや行けなくなってしまったし、経済活動も強烈な打撃を受けている。
今までの、生き方が問われ、これからどう生きるかの選択に迫られている。
自分のできる学びを続けて、時代をつなぎたいと願っている。