「武士道」解題:李登輝著 2003年刊 李総統が日本で受けた教育、キリスト教を通じて新渡戸稲造に私淑して「武士道」を身につけた人生を語る。西洋哲学・文学も視野に入れた「日本精神を学び直す」良書

巨星墜つ、心より哀悼の意を表します。合掌

日本の台湾統治時代に生まれ育ち、日本で大学を出て、日本の心を学んで、台湾の建国精神を打ち立てた、李登輝総統が亡くなりました。
台北市長から台湾首相になり、台湾の中国からの独立、現在のようなIT技術の使いこなし技術を確立し、政界引退後も請われて総統となり台湾の指導者の養成を続けました。

2003年に書かれた「武士道」解題は、李総統の生い立ち、日本学だけでなく西洋文化との比較も含めた考察が、丁寧に書かれています。
新渡戸博士とは、キリスト教を通じて彼の思想に触れて私淑し、そして台湾総督府での新渡戸博士の農業経済の実践を目の当たりにして、その後を継いで、農業経済を学び、台湾で実行します。

李総統は武士道精神を理解するには、古今東西の文学・哲学をカバーし、武士道精神が公を先に考えるという、「まず人のため」という精神が本質にあると指摘します。
西洋では「ノブリス・オブリージュ」で表される、上の立つものの精神が基本だと喝破します。

自分の課題としての軌跡をまとめた書

李総統の自身が「生きるとは」「自分の人生の役割は」など青春時代の歴史を振り返りながら「武士道精神」を自分のものとしてゆく姿が読み取れます。
ものすご勉強量、それをさせた当時の台湾総督府の教育システムと、教員の情熱とパワーを感じることができます。

八田與一(よいち)氏の功績

この著作に付属して、幻の原稿が記載されている。
2002年に開催される予定だった李総統の講演会原稿である。
日本入国のビザが降りずに幻となった講演会の発表原稿である。
そこには、烏山頭(うざん)ダム建設に関わった八田與一氏が取り上げられている。32歳で烏山頭ダム建設を任され、10年かけて治水と灌漑により嘉南(かなん)平野15万町歩の稲作、サトウキビの増産に成功します。
働き方も、現地の人と日本人を差別せず、先輩や上司を大切にしてチームをまとめ上げてゆきます。
途中、関東大震災など日本での災害のため、予算が大幅に削られますが、それでもチーム力で仕事を前進させます。
現在でも八田與一氏は、現地の人から慕われ、尊敬されています。

義を重んじ、誠を持って率先垂範、実践躬行(きゅうこう)

李総統は、八田與一氏こそ「武士道の実践者」と称賛します。
自ら、義を重んじ、誠を持って率先垂範、実践躬行(きゅうこう)して来た姿を讃えるわけです。
かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ 大和魂(吉田松陰)

今こそ、日本の出番

このような「武士道の精神」こそグローバル社会では重要だと李総統は強調します。常に公を優先して考え、自分が受け持つことはきちんと行い、誠を尽くす。
李総統の、日本への激励は、我々日本人が「今すぐに取り組めること」でもあります。
内容が濃く、幅広い視点で「武士道精神」が学べるお勧めの著作です。

人生100年大人の学び

李登輝総統は、「武士道精神」は公に尽くすことから始まる精神。それが具体化したのが、戦前の台湾での教育と、現地の日本人の生き方、そして台湾への貢献で説明している。これからの混迷の時代に、日本が「自信を持って」「リーダーシップを発揮」して欲しいというエールである。私にとっては、具体的にやることが明確になって来た。

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