【帝王学「倫理」第四十三講 「抜本塞源」】杉浦重剛著 「倫理」より[YouTube]「抜本塞源」とは 「事物の根本を明確にして現実に適切に対応する」 ということです 人間が他の動物と比べて卓越しているのは 事物の本源を研究して洞察してその後で 適切な対応策をとることにある

「抜本塞源」という言葉は、 王陽明の儒学の教え「伝習録」と 孔子の「春秋」の解説書「左伝」に載っています。 歴史的に見て、「左伝」の言葉を王陽明が使ったわけです。
「抜本塞源」の意味は、 「事物の根本を明確にして現実に適切に対応すべし」 ということです。 人間が他の動物と比べて卓越しているのは 事物の本源を研究して洞察してその後で 適切な対応策をとることにあります。

身近な例で言いますと、医者が病気の診断をする時 病気の原因を突き止めて、投薬します。 簡単な腫物でも、病根を除去しないと治りません。 世の中の物事は大体そうです。
兵が多くても負けるのは、兵が弱いからです 弱い兵を強くしなければいけません。 強くするには、恥を教えて勇気を出させることです。 兵が少なくて負けるのには、兵を増やすことです。 兵を増やすには成年男子を多くすることです。 結局は人口の増加が大事です

王陽明の学問は聖人の学問です。
「論語」に 「訴訟があれば、名判官もでるだろう。しかしそれは すでに起こってしまったことへの対応に過ぎない 訴訟が起こらないようにするのが基本だ」 とあります。
君臣父子、兄弟朋友、それぞれが分をわきまえれば 訴訟は起こらないであろう。 それが、 「抜本塞源」の意味です。
支那では、常に「王道」「覇道」の議論があります。 「覇道」は刑名法術にしろ、富国強兵にしろ 枝葉末節なことにとらわれ過ぎています。 「王道」は仁義を徹底して行い、最初に君子父子の 道徳を正しくします。 この点が、儒家が「覇道」を軽蔑する理由です。
蘇轍(そてつ)が「秦論」で 相手の自壊を待つことで国を統一した「王道」の国、 富国強兵で国を乗っ取った国、「覇道」はその繰り返しとなるとあります。

王道・覇道の差は 覇道は「抜本塞源」の考えを持たないことにあるのです。 我が国では昔から「修理固成」の神の教えがあって 皇室では、歴代、国家の諸改革が「抜本塞源」の方法で 行われました。 すなわち「王道」で国を治めてきたことが歴史に明確です。
神武天皇の東征、神功皇后の新羅征伐、仁徳天皇の仁政 天智天皇の中興などが著名です。
最近では、明治維新の「五條御誓文」も「抜本塞源」 の考えに基づいています。 これに対して、西欧の国々は、ずっと「覇道」でした。 富国強兵をただ一つの方策としていました。 我々が、仁政で統治しているのを知らないのです。
ですから、イギリスもフランスも革命という 大混乱が起こったわけです。 君の君たる、臣の臣たるが無いのです。

第一次大戦後、欧米諸国は社会改造という言葉を 言い出して、我が国でも 「改造」とか「解放」とかいう人たちがいます。 では、何を改造するのかといえば、階級の打破とか 一般人に選挙権を与えろとか、労働時間を短縮して 賃金を上げろ、とか言っています。
このように、物質上とか形式上の問題が中心です。 これでは、社会の改造はできません。 言い換えると、庶民の多くは「抜本塞源」の意味を 忘れてしまっています。 一般の人々に選挙権を与えるとすれば、まずは教育を 行って、知識と品性を改造しなければなりません。 労働問題でも、労働者の知識と品性を高めるのが基本です。 そうすれば、自然に労働者の地位が向上します。

このことで、「大学」という書物では 「修身斉家治国平天下」 といいます。 まず、我が身を正し、家庭を平和にして国を治めた後に 天下が平安になる、という意味です。
また、治める立場から庶民を見ると、下流社会の 不満がどこにあるかを考えるべきです。 たとえば、上流階級が贅沢を戒めて、行いを謹んで 国のため、社会のために尽くせば、上流に対する 下流の反抗心が和らぎ、気持ち良く協力できます。 大金持ちの資本家も、私腹を肥やすことにだけに汲々とせずに その利益を、労働者に分けて温情を注げば、この問題も 自然と解決します。
為政者の側から見ると、注意すべき重大点です。人民が反乱した時には、警察や軍を出して抑えるのではなく 人民が困っている源を考えて 適切な処置を取るべきなのです。

司馬遷の「史記」にこうあります。 川を制御するには、川床を工事して水を流れやすくする 民をも同じで、民意が問題とする政治の欠点を改革する。
改革する場合は「抜本塞源」を忘れてはいけません。
禹王は常に「抜本塞源」で大洪水を治めました。
我が国の、陽明学者の熊沢蕃山の話があります。 ある時、たくさんの人たちが池を作りました。 後々まで、熊沢蕃山の池だけが壊れませんでした。 熟練の工事人を選んで、多くの報酬を支払ったためです。
根本をきちんとやったということです。
以前申し上げましたように 「修理固成」は古代からの神の基本方針のお言葉です これを実行する方法は、 王陽明の「抜本塞源」です。
殿下は、以前ご講演で「功名富貴」を度外視するのが 真の豪傑だとおっしゃいました 。「抜本塞源」の本当の意味です。
そのようにされれば、今日の社会問題は 容易に解決できると信じております。

人生100年大人の学び

「抜本塞源」で根本的な考え方をして、世の中の出来事に徳を持って対処するのが「王道」日本は古代からそれが連綿と続く、稀有な国であることがわかる。
古事記に「シラス」=「王道」「ウシハク」=「覇道」という言葉があり、大国主命が、国譲りしたのは出雲が「ウシハク」だったからとつながった。

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